自作小説「一緒にテニスでも同好会」40 第5章(その11)

「サキはどうなのよ。男っ気ないの?」
「今のところわね」
「それはつまらないわね。いい男がいたら、紹介したげようか」
「そうね、頼むわ」
 それほど勢のない言い方だった。サキは未知の男より、近くに座っている堂
本の方に興味があった。彼の方を見ると、男と女が肩を組んでデートしている
カラオケのテレビ画面の映像に目をやっていた。ふとサキと目が合い、サキは
慌てて目をそらせた。
 サキは人を好きになるのはどういうことなんだろうと考えていた。空しい人
生を忘れさせてくれる方便に過ぎないのではないかと懐疑的に思えてくるのだ
った。少なくとも恋愛が人生のすべてなどとは到底思えなかった。真紀のよう
に人に惚れ込むといちずに相手に走ることなどサキにはできない相談だった
し、相手へ入れ上げ方が極端で身も心も捧げてしまう結果、それが相手には煩
わしくなって結局去られてしまうというのは、サキにはいかにも愚かしいこと
に見えていた。むろん、サキも今まで異性を好きになったことはあり、一週間
後に控えた高校のクラス会で川西に会うのを心待ちにしているのだったが、恋
愛のみで人生が成り立っているなどとは考えられなかったし、自分の中での恋
愛の位置付けもはっきりしていなかった。人を好きになるのはいい、しかしそ
の相手と一生を共にして歩いてゆくとはどういうことなんだろう、それが果た
して可能だろうかと思ってしまうのだった。とりわけ、両親の姿を目の当たり
にしていると、結婚生活が薔薇色には見えなかったし、他の家庭にしても、生
活は共にしていても、所詮は別々に生きているだけのような気がしていた。女
と男はそもそも生理的に違っているし、完全に分かりあえることなど不可能
だ、いや女同士でも、それぞれ別の個性を持っているのだから、お互い好きな
ところも嫌いなところもあるわけで、妥協して生きてゆかねばならない。恋と
は幻想に過ぎず、結局それぞれが一人の生を全うしてゆかないとしょうがない
んだ。人生は孤独なものなんだ、それがサキのいつも到達する思いだった。人
生に意味なんてあるんだろうか、そうとまでサキが思い詰めることもしばしば
だった。川西にしたって、堂本にしたって、自分の人生とどうかかわってくる
というのだろう、サキは酔いが回ってぼうっとなってゆく頭の中で考えてい
た。

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