自作小説「一緒にテニスでも同好会」36 第5章(その7)

 坂崎は慌ててマイクを握ったが、理奈の比ではなかった。時々音程がずれる
し、歌も遅れがちだった。みんな腹をかかえて笑ったが、坂崎自身、無理にへ
たに歌って、笑いを取ろうというつもりかもしれなかった。歌い終わった時、
理奈と同じほどの拍手が起こり、坂崎は大仰にVサインを出した。
「確かに坂崎が見事クッションの役目を果たしてくれたおかげで、みんな歌い
やすくなったな」
 田辺が言ったのを桜井が引き取って、
「そうだな。あとは平等にジャンケンで順番を決めようや」
と提案すると、みんな口々に賛成した。
 サキは堂本、昌代についで三番目になった。彼女は自分の歌のことを心配す
るより、堂本と昌代がどんな歌を選び、どんな声を披露してくれるかの方に関
心があった。普段無口な堂本は、女性ボーカルのロック調の曲を歌った。なか
なか甘い声であり、サキはうっとりとその声に聴き惚れた。彼に対する関心が
おのずと高まっていった。
 昌代は古風な童謡を歌い、みんなを驚かせた。美声ではなかったが、可愛ら
しい声で丁寧にしみじみと歌い、男たちのさかんな声を浴びた。
「さすが、ロマンチスト!」
「昌代ちゃん、すてーき」
 昌代は顔を真っ赤にして、うつむいた。サキはそんな昌代をいじらしいと好
意的な目で見ていた。
 

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