自作小説「守護神」51 第14章(その1) ※注 小説の時代設定は1970年代。
島津が定規を持って部屋から出て行くと、木村は宮下に向き直って尋ねた。
「怠惰の話とはなんだい?」
「ああ、それか。例によって自分のぐうたら生活の弁護を彼にしていたのさ。怠惰人間の存在意義を調子に乗ってぺらべらとしゃべりまくったんだ。挙げ句の果ては、木村まで登場して来たんだから、面白い」
宮下はにんまりと笑った。
「えっ、どういうことだ」
「いや、彼がおまえは勤勉型か、怠惰型かと訊いたから、勤勉八割、怠惰二割と言ってやったのさ」
「それは確かに面白い話だが、人間を規定し過ぎているきらいがあるな」
木村は今朝宮下に対して持ったものと同様の不満をまた覚えた。
「それはそうだ。彼にも人間はそう簡単に割り切れるものじゃないと言っておいた。しかし、それにもかかわらず、人間はどうあがいても、自分自身をそう変えられはしないんだ。ヘミングウェイの小説だったか、こんな言葉があった。『どこへ行ったって、自分からは逃れられないんだ』まさにこの通りだよ」
「それは悲観的だ。自己改革は可能なんだ」
木村は強く主張した。
「いやに張り切っているじゃないか。まさか、今日から自己改革を始めたというつもりじゃないだろうな。大学をサボるのもその一環だったりして」
木村は宮下にたやすく見破られるほどの自分の浅はかな考えを恥じた。
「しかし、結局どうしたんだい」
「あれから怜子の所へ行ったんだ」
「ぬけぬけと言ってくれるじゃないか。今までずっと彼女とデートだったのかい」
「いや、午前中彼女の所にいて、三条まで一緒に行ったんだ。それから一人になって、クラシック喫茶に入ったんだ」
「ほう、木村もクラシックが好きになったのか」
「そういうわけじゃないが、『新世界』を聴きたくなったんだ。おかげで充実した気分で外へ出られたよ」
「なかなか優雅じゃないか」
宮下は聞き役に回り、茶化す役目も務めていた。
「怠惰の話とはなんだい?」
「ああ、それか。例によって自分のぐうたら生活の弁護を彼にしていたのさ。怠惰人間の存在意義を調子に乗ってぺらべらとしゃべりまくったんだ。挙げ句の果ては、木村まで登場して来たんだから、面白い」
宮下はにんまりと笑った。
「えっ、どういうことだ」
「いや、彼がおまえは勤勉型か、怠惰型かと訊いたから、勤勉八割、怠惰二割と言ってやったのさ」
「それは確かに面白い話だが、人間を規定し過ぎているきらいがあるな」
木村は今朝宮下に対して持ったものと同様の不満をまた覚えた。
「それはそうだ。彼にも人間はそう簡単に割り切れるものじゃないと言っておいた。しかし、それにもかかわらず、人間はどうあがいても、自分自身をそう変えられはしないんだ。ヘミングウェイの小説だったか、こんな言葉があった。『どこへ行ったって、自分からは逃れられないんだ』まさにこの通りだよ」
「それは悲観的だ。自己改革は可能なんだ」
木村は強く主張した。
「いやに張り切っているじゃないか。まさか、今日から自己改革を始めたというつもりじゃないだろうな。大学をサボるのもその一環だったりして」
木村は宮下にたやすく見破られるほどの自分の浅はかな考えを恥じた。
「しかし、結局どうしたんだい」
「あれから怜子の所へ行ったんだ」
「ぬけぬけと言ってくれるじゃないか。今までずっと彼女とデートだったのかい」
「いや、午前中彼女の所にいて、三条まで一緒に行ったんだ。それから一人になって、クラシック喫茶に入ったんだ」
「ほう、木村もクラシックが好きになったのか」
「そういうわけじゃないが、『新世界』を聴きたくなったんだ。おかげで充実した気分で外へ出られたよ」
「なかなか優雅じゃないか」
宮下は聞き役に回り、茶化す役目も務めていた。
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