自作小説「守護神」28 第8章(その4) ※注 小説の時代設定は1970年代です

「怜子は大阪に本決まりだろ。僕の場合は東京になるか、神戸になるかはっきり分からないんだ。研究所に入るはずだから、どちらかには違いないんだが。一応希望を聞かれて、できれば神戸と答えておいたけど、あてにはならない」
「東京と大阪でもいいじゃない。名古屋で会ったりして。新幹線デートだわ。ゴージャスな事!」   
 今度は怜子のはしゃいだ様子を見せられ、その変化の早さに木村は舌を巻いた。   
『だが、待てよ。確かに彼女に翻弄されているみたいだが、それは守護神を念頭に置いて彼女を見ているからだ。守護神に合うか合わないか、彼女のちょっとした動作や発言にもその物差しを当てはめようと神経質になり過ぎている。彼女にすれば、いつもと変わりないはずだ。真面目な話もし、急に冗談を飛ばしもしているが、それは今日に限ったことじゃない。    
 それなのに、それを重要視してしまうなんて。さっきも彼女に対して冷静になれと思ったばかりじゃないか。彼女に対してというより、自分に対して冷静にならなくては駄目だ。もう、こんなひとり芝居のようなことは止めよう。明日になれば決着が付くんだから』   
 三条大橋が間近に見えてきた。川べりに腰を下ろしているカップルの姿がたくさん目に付いた。十一月といっても、昼の日差しは多分に暖かいものを残し、肌に心地よい刺激を与えていた。ほぼ等間隔に座っているカップルたちが、木村にはどれも同じようなものに見え、おかしくもあり、腹立たしくもあった。  
『個性がないんだ。これじゃあ、お互い相手を取り替えても、全く差し支えないという気さえするよ。もっとも、自分たちもあの橋の上から見る人にとっては、彼らと同類のように目に映るだろうな。まあ、それも仕方ないさ。他人の目なんか気にする必要はないんだ。あくまで自分の自覚の問題なんだから。この中にだって、自分と同じようなことを考えている者がいるかもしれない。守護神を持っている者が。だが、不幸なことに、お互いそれが分からないんだから、世の中なんてままならないものだなあ。
 それはともかく、個性がはぎ取られてゆく今の世だから、守護神という指針が必要なんだ。この中に自分たちの仲間がいるかどうか分からないが、少なくとも自分たちだけは違うんだ。それは自負していいことじゃないか。あれっ、「自分たち」だなんて、もうすでに怜子と自分を一緒くたに考えているぞ。そう、その調子だ。前向きに考えてゆこうじゃないか』
 彼は嬉しさが込み上げてきて、今みんなの見ている前で怜子を思いきり抱き締めたいという衝動に駆られた。
『こういう気持ちが自然なんだ。彼女の部屋ではどうもいけなかった。義務感みたいなものが先に立ってしまい、それを果たしているという気持ちしかなかった。今なら、明日のことを何にも考えず、彼女と素直にセックスできるという気がする。それが結果的に、良いか悪いは別として』

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