自作小説「守護神」30 第9章(その1) ※注 小説の時代設定は1970年代です

 教室の静寂を打ち破るように、チャイムが鳴りわたった。しゃべり終えた講師は、自分のノルマを果たせばそれで充分だというふうに、そそくさと教室から出て行った。それに比べると、浪人たちの動きはずっと緩慢だった。ざわめきもなく、めいめい本やノートをかばんにしまうと、おもむろに退室した。出席者の数は少なく、出口で混雑するということもなかった。島津は白石と一緒に教室を出た。 
「ここの食堂でめしを食うか」
 白石の呼びかけに対して、島津はぶっきらぼうに答えた。
「いや、外に出たいんだ」
「じゃあ、そうしよう」
 近くのうどん屋に二人は入った。店内は結構混んでいたが、幸い二人分の席が空いていた。若い女店員が茶を運んで来た。
「いらっしゃいませ。何になさいます」
「俺はうどん定食でいいよ」
 島津が言うと、白石もそれに呼応するように、
「俺も」と言った。
「うどん定食二つですね」
 島津は去って行く女店員の方を白石に顎で示しながら、  
「この店、あの娘で持ってるんだぜ。場所が近いだけじゃ、こんなに予備校生を集められるもんか。彼女は予備校生のアイドル的存在なんだ。確かにあの可愛さじゃ、みんなが注目するのも無理ないぜ」
「おまえ、あんまり予備校に来ないくせに、そういうことは詳しいんだな」  
「皮肉を言うなよ。友だちからさかんに彼女のことを聞かされるもんだから、二、三回ここに寄ったことがあるんだ。おまえこそ、彼女のことを知らないなんて遅れてるぜ」   
 島津がからかうように言うと、白石はむっとして言い返した。   
「そんなこと別に知らなくてもいいんだ。もっと大きな目的があるんだからな、俺たちは」
「違いないな」
 島津はうつろに笑った。

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