京都探訪392 京都国立近代美術館の「コレクション展」2 靉光さんの静物画・戦争の犠牲者 小野竹喬さんの「奥の細道句抄絵」1 「あかあかと日は難面(つれなく)も秋の風」



京都国立近代美術館の「コレクション展」には、靉光(あいみつ)さんの絵画が三点展示されていました。いずれも静物画で、昭和13年頃に描かれた「壺に入った花」(一枚目の写真)と、昭和17年の「花(やまあららぎ)」(二枚目)「静物」(三枚目)ですが、作風が違っており、振幅の大きさがうかがえます。
靉光さんと言えば、不気味な「眼のある風景」を最初に見た時の衝撃が忘れられませんが、これも昭和17年に描かれた作品です。絵の真ん中付近に大きな眼がこちらを向いており、左右には何かよく分からない塊が描かれています。画家の心象風景を表しているのでしょうが、当時の時代状況を物語っているようにも思えます。戦時下で、日本全体が軍国主義一色に染まり、絶えず監視されて息が詰まっている、どうしようもない閉塞感を表しているのではないかと。靉光さんは軍部に戦争画を描くように要求されますが、それを拒否し、召集され中国戦線に送られます。終戦の翌年、帰国できないまま現地で病死します。38歳でした。靉光の出身地は広島ですが、原爆でたくさんの作品が失われ、いろいろな意味で戦争の犠牲になった画家でした。
また小野竹喬さんの「奥の細道句抄絵」が五点展示されており、これも目を引きました(前期の展覧会では別の五点が展示されていました)。竹喬さん86歳の時の作品です。

写真は「あかあかと日は難面(つれなく)も秋の風」の句を絵にしたものですが、夕日の赤さがとりわけ印象的ですし、吹く風はなびいている花によって表されています。句の中に「つれなくも」という語がありますが、「無情に」とか「平然と」という意味であり、暑い中、旅を続けている芭蕉たちに日が照りつけている様子を巧みな表現で表しているわけです。そこに秋の風が吹いて、少しの涼を感じてほっとしているさまが思い浮かびますが、弟子がこの地で亡くなったことを知ったばかりだという事情を考え合わせれば、「秋の風」という表現に淋しさも感じられます。この句は北陸の海伝いに歩いている途中、金沢付近で詠んだものです。竹喬さんは芭蕉の作品世界を自分流の解釈を交えて描いており、そこにオリジナリティが見られ、芸術性を感じます。
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