フランス文学探訪91 カミュ「異邦人」4 孤独に生き死んだ主人公・小説「ペスト」とは対照的

 カミュ自身が、このムルソーの生き方を肯定しているわけではありませんし、私ならずとも、母親の年も知らず、死んだ母親の顔も見ようとしなかったことや、愛もなく女性との関係を続けていることや、あげくの果ては自分とは何のかかわりも持たない相手に対して、銃を何度も撃って死に至らしめる彼の行為を是認できるはずはないでしょう。カミュも意図的にこういう主人公を作り上げて、自由な意思のまま自然に生きさせたらどうなるかを小説の上で実験したのです。カミュの小説の中にはこういう「反抗的人間」がよく登場しますが、ジイドの「法王庁の抜穴」のラフカジオの流れを汲むと言っていいでしょう。
 「異邦人」とは社会から見ての異邦人ということであり、ムルソーは所詮、社会からつまみ出され、弾劾される運命でした。孤独なままに生き、孤独のうちに死んで行ったこの作品に、救いはなく、問題提起だけしているという感じを受けますが、孤独な人間同士の友情と連帯を描いたのが、長編小説「ペスト」です。そこでは、ペストが蔓延し、町ごと外部から隔離されてしまった中で、主人公の医師は献身的に治療を続けてゆきます。絶望的に見えた孤独な戦いでしたが、彼に共鳴する者が現われ、同志の数は増えてゆきます。多大な犠牲が払われましたが、ようやくペストの終焉を迎えて、町は開放されました。この小説の場合は、ペストという、人間を超越した存在に対する反抗という形を取っており、人間同士が結びつくことによって、困難な状況を乗り越えることができたのです。もっとも、この「ペスト」はドイツに対する抵抗運動の中で、書き始められましたから、ペストとナチスとが重なり合っているのかもしれませんが。
(2003年08月16日 公開)

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