フランス文学探訪90 カミュ「異邦人」3  「不条理の文学」・自然のままに生きる主人公

 この小説は「不条理の文学」と呼ばれています。毎日同じようなことを繰り返している生活に空虚と倦怠を感じている人の意識を「不条理の意識」と作者は規定しています。ムルソーもその一人であり、彼はありのままに生きようとして、それが社会と確執を起こし、殺人行為によって、断罪されるのです。自然のままに生きようとすることがいかに難しいかを表わした作品ですが、殺人行為だけでなく、彼の人間性が問題にされて、死刑判決を受けるのは理不尽だという読後感は拭えません。社会に抹殺されてしまったという印象を受けてしまいます。
 ムルソーはいい意味でも悪い意味でも、社会の規制を受け付けない自由人でした。恋人のマリイが自分を愛しているかと尋ねた時も、「愛していない」とはっきり言いますし、結婚を重大視する彼女に対して、「それは違う」と言い返します。彼は留置所の中で、古新聞を見つけ、その記事に注目します。記事の内容は次のようなものです。
 男が村を飛び出し、二十五年後に金持ちになって妻子を連れて帰って来ます。男の母親と妹が経営するホテルを訪ねてそこに泊まるのですが、母親も妹も彼が肉親であることに気づきません。男も自分の素性を偽りました。男が金を持っているのを知った母親と妹は夜中にその男を殺して、金を奪ってしまいます。朝になり、男の妻が訪ねて来て、男の素性を明かします。母親と妹は肉親を殺してしまったことを知り、自殺してしまいます。
 ムルソーはその記事を読んで、男が嘘をついたのがいけないと感想を述べますが、あくまで自分に誠実であろうとするムルソーの考え方がよく現われています。実はこの新聞記事の出来事をカミュは後に「誤解」という戯曲にしています。話の内容は全く一緒です。
(2003年08月10日 公開)

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック