フランス文学探訪89 カミュ「異邦人」1 太陽のせいで人を殺したと言う主人公

 アルベール・カミュは1913年にアルジェリアで生まれました。彼が1歳の時、父が死に、アルジェという町で母と共に貧困の中で育ちました。「異邦人」の舞台もアルジェです。カミュはアルジェ大学を出た後、職を転々としていますが、やがてアルジェやパリで新聞記者になり、詩的エッセイを書くなどして文学活動もしています。第二次世界大戦の折には、ドイツに対する抵抗運動に加わりました。「異邦人」が書かれたのは、パリがドイツの占領下にあった1942年のことでした。戦後の47年には大作「ペスト」を世に出しました。57年にはノーベル文学賞を受賞しましたが、それからわずか3年後に、自動車事故のため、46歳という若さで亡くなっています。
 「異邦人」は、アルジェに住む若い男ムルソーが一人称で語るという日記形式の小説です。第一部は、母がな亡くなったという電報を受け取るところから話が始まり、彼は母が暮らしていた養老院に出向きます。しかし、彼は母の死顔を見ようとしませんし、棺の前で平気で煙草を吸い、葬式の際にも涙を流さず、あくまでクールな態度でした。葬式の次の日に、愛人と関係を結びますし、その愛人に向かっても愛していないと言います。むろん、彼女との結婚も望んでいません。
 同じアパートの住人であるレイモンという男と知り合いになりますが、レイモンが自分を裏切った女性に暴力をふるったことから、その女性の兄のアラブ人といざこざが生じ、ムルソーもそれに巻き込まれることになります。ムルソーがレイモンの誘いで郊外に泳ぎに行った時、アラブ人とけんかになり、ムルソーがたまたま一人で散歩に出かけた折、アラブ人と出くわし、アラブ人が持つナイフによる強烈な太陽の反射と流れる汗によって目が見えなくなり、相手を銃で撃ち殺してしまうのです。
 第二部では、彼の裁判の様子が描かれます。彼はアラブ人を撃った理由について、太陽のせいだと言い、法廷内の失笑を買います。アラブ人に撃った弾が一発ではなく、さらに四発も撃ち込んだことも問題にされます。彼が母親を養老院に送り込んだことや、母の死の際の彼の冷酷な態度や、その直後の愛人との関係などが、裁判で明らかにされ、彼の人間性が疑われる結果となり、斬首刑の判決が下されます。彼は司祭による神の救いも拒否しますが、死を前にして不思議と安らいだ気持ちになります。
(2003年07月20日 公開)

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