自作小説「一人芝居」18 第6章 「独身者のひがみ」 (その1)
「三橋君、愛妻弁当はいいね」
大町は隣りの机で弁当の蓋を開けようとしている三橋をからかった。三橋も負けてはいなかった。
「そうですよ。でもね、先輩、この良さは体験者でないと分からないもんなんですよ。先輩も早くわれわれの仲間に入らなくちゃ」
「こりゃ一本取られたな。豪勢なおかずじゃないか。いかにもうまそうだな」
「あいつにはこれが仕事ですからね。まずいものを食わせたら、承知しませんよ」
「おやおや、おのろけから今度は亭主関白かい」
「奥さんはお料理上手なんですってよ」
と横合いから女子社員の村松が茶目気たっぷりに言った。
「よく知ってるね」
「だってね、大町さん、この人いつも奥さんの料理自慢ばかりするんだから。私も奥さんを見習えって言いたげにね」
「それは誤解だよ」三橋が言った。
「まあ、今だけさ。まだ結婚して三ヶ月じゃないか。ままごとみたいなものさ。もう二、三年したらぼやきばかりになるよ」と大町が決めつけた。
「それは独身者のひがみだなあ」
と三橋が大きな声で言うと、まわりの者はどっと笑った。
「三橋君には勝てそうもないや。負け犬は退散して食堂へ行ってくるか」
大町は部屋を出た。食堂は地階にあった。時間が少しずれているせいか、立ち並んでいる者はわずかだった。彼は食券を出しごはんとおかずを受け取ると、盆に載せてテーブルの方へ行った。テーブルは結構埋まっていたが、あちらこちらに空席があった。どこに座ろうかと迷っていると、
「おおい、こっちだ」と手を挙げて大町を呼ぶ者があった。同じ課の井上だった。横に田代の顔もあった。
「遅かったじゃないか。仕事は片付いたのか」
「いいや、明日までかかるんだが、一段落つくところまでもうちょっとだったから、頑張っていたんだ。それに終わってからも三橋をからかっていたんで遅くなった」
大町はがつがつ食べながら言った。
大町は隣りの机で弁当の蓋を開けようとしている三橋をからかった。三橋も負けてはいなかった。
「そうですよ。でもね、先輩、この良さは体験者でないと分からないもんなんですよ。先輩も早くわれわれの仲間に入らなくちゃ」
「こりゃ一本取られたな。豪勢なおかずじゃないか。いかにもうまそうだな」
「あいつにはこれが仕事ですからね。まずいものを食わせたら、承知しませんよ」
「おやおや、おのろけから今度は亭主関白かい」
「奥さんはお料理上手なんですってよ」
と横合いから女子社員の村松が茶目気たっぷりに言った。
「よく知ってるね」
「だってね、大町さん、この人いつも奥さんの料理自慢ばかりするんだから。私も奥さんを見習えって言いたげにね」
「それは誤解だよ」三橋が言った。
「まあ、今だけさ。まだ結婚して三ヶ月じゃないか。ままごとみたいなものさ。もう二、三年したらぼやきばかりになるよ」と大町が決めつけた。
「それは独身者のひがみだなあ」
と三橋が大きな声で言うと、まわりの者はどっと笑った。
「三橋君には勝てそうもないや。負け犬は退散して食堂へ行ってくるか」
大町は部屋を出た。食堂は地階にあった。時間が少しずれているせいか、立ち並んでいる者はわずかだった。彼は食券を出しごはんとおかずを受け取ると、盆に載せてテーブルの方へ行った。テーブルは結構埋まっていたが、あちらこちらに空席があった。どこに座ろうかと迷っていると、
「おおい、こっちだ」と手を挙げて大町を呼ぶ者があった。同じ課の井上だった。横に田代の顔もあった。
「遅かったじゃないか。仕事は片付いたのか」
「いいや、明日までかかるんだが、一段落つくところまでもうちょっとだったから、頑張っていたんだ。それに終わってからも三橋をからかっていたんで遅くなった」
大町はがつがつ食べながら言った。
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